エッセイ・コラム No.7

 

 貴き責務(ノーブレス・オブリジュー)
   
汗を流し血を流してでも弱者を救済する

 書棚を整理していたら「インターナショナル・リクリューメント・ニュース」の古いファイルがでてきた。しみじみとした懐かしさを感じる。これは国連および国連により設立された各種の國際機関に勤務する國際公務員の空席公募ニュースで、毎年数百から千余におよぶポストの一般公募が行なわれている。この資料は外務省内の國際機関人事センターに頼めば個人に対しても毎月郵送してくれる。

 私事で恐縮だが、30年程前、このニュースを見て、UNESCO(国連教育科学文化機関:ユネスコ)のクアラランプール駐在「コミュニケーション・アドバイザー」の空席を見つけて応募したことがある。気候は常夏、シンガポールにも近く、給与も抜群、しかも30余年の技術的経験と知識がそのまま適用できると判断したからである。50歳の時の決意でもあった。外務省の書類審査に通り、ユネスコから派遣されてきた試験官に面接(東京で)し、採用を保留された。理由はUNESCOの内部規程により「軍務(自衛隊)を離れてから二年の経過日数を要する」というもので、二年後に再度応募してもらいたいとのことであったが、別の人生計画もあったのでそれなりになったが、試験官との四方山話は本当に楽しかった。

 国連の勤務人員の国別割当ては国連分担金の負担率に比例し、当時、日本は約250人の割当てに対して120人前後が出向しているのに過ぎず、官公庁や大手企業の人事制度の閉鎖性のため2〜3年間の休職扱いや特別措置により優秀な人材を國際機関に出向させるのをためらう風潮があり、また当人自身も留守間の昇任等で不利益を蒙るのではなどの打算が働き、二の足を踏むのである。インドなどは僅少な分担金のため割当て人員も少ないが、日本等の穴を埋めるため数倍の人員を派遣し、帰国後はそれに見合う職に進み、国の発展に寄与しているという。 日本は現在も基本的にはこの傾向は変わらず、日本人の國際性の欠如を如実に表しているといえよう。

 昨年、今後の三年間の国連通常予算の各国分担率が全会一致で採択され、世界第二位の負担国である日本の分は従来の20.56%から19.63%に僅かに軽減された。これは日本の現在の国状からみて当然のことであるが、日本の二倍の経済規模を持つアメリカと大きな差はない。他方、弱い経済力と強い軍事力で常任理事国に居座るっているロシアと中国の負担がそれぞれ僅かに増加したが、それらの全体に占める率は数パーセントに過ぎない。

 国連の安全保障理事会の改革は1993年の作業部会設置決定以来、具体的な進展がない。関係各国の利害が輻輳し、未だ見とおしさえたたない。日本はかねてから安保常任理事国入りを念願してきたが、日本は国連に対する財政的な貢献を国連の中、ひいては國際社会の中での地位の強化に結び付ける発想と戦略を先ずは構築することが必要である。
第ニには、言葉による積極的な発言、説得に努めなければならない。世界に発信する確固たる意思の発表は経済力とあいまって大きな相乗効果を発揮するものなのでのある。
第三は、人的面での責務を果たさねばならない。具体的には「国連平和維持部隊」(PKF)への参加凍結を解除すると共に、割当て職員数を完全に満たす意欲が不可欠である。 その上で、アフリカへの侵略、植民地化に関与しなかった日本の立場を強調しで、多数の議決権(票数)を持つアフリカ諸国との連携を高めるような外交の独自性が求められる。

 アメリカ一辺倒、そして中国やさらには北鮮にさえも弱腰外交を続ける必要はない。特に中国に対する政府開発援助(ODA)は軍事力の増強に反比例すべきである。また首脳同志の言質を公然と無視するロシアに対してもっと毅然たる態度がとれないのだろうか。世界はこのような日本の態度を冷静に観察している。日本はアジアの発展を導いた貴重な経済援助の発動をより効果的なものにすると共に汗を流し血を流しても弱者を救済するという「尊とき責務」(ノーブレス・オブリジュー)の遂行にも目を向けなければならない。

我が国では、古来から神社、 仏閣に対する寄進や奉仕について、身の布施、知恵の布施、財の布施と言われてきがが、財の布施者に対しては寄付者名を刻んだ石碑や石版を建てて末代まで顕彰するのに対し、多大の労苦を伴う勤労奉仕の身の布施者に対しては格別に報いることはない。金銭こそ最大の寄与との風習、習慣が根付いている。

真理には普遍性および妥当性の裏付けが不可欠である。今や、国際社会ではキリスト教の博愛の精神に西欧騎士道を混交した心情、即ち、汗、血を流し、あるいは生命の危険を冒しても弱者を救済するという「貴き責務」の遂行が高く標榜されている。金さえを出せば責任を全うするという思考はなりたたないことを知ることが大切である。

 

 

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