エッセイ・コラム No
.9

世界に誇る感性検索エンジン

 この頃はさっぱり御無沙汰しているが、2年程前まではよくスナックに顔を出したものだ。ライオンズクラブの委員会(通常、夜間で一杯飲みながら討論する)の流れは当然スナックだった。良き時代だったのだろうか。
  そこでのお決まりの手順、カラオケのメニューが廻されてくる。歌いたい歌があるのだが、その題名が思い出せない。そんなことがあるでしょうが。そこでスナックのママさんに聞く、「確か港の歌で、行灯に傍で、好いた女子と一杯飲んでいる歌じゃがなー」と言へば、すかさず「それは舟歌じゃろがー」と一発で決まる。即ち
インターネットで欲しいデータを求める時の「キーワード」「ヒント」を提示するだけで欲しいデータが世界中から検索されるのと等しい。
 だが若いママさんではそうのいかない。例えば、「アー、なにか淋しげな歌で、失恋の境地かな」など言っても、「そげな歌は山程あるがー」と言って埒があかない。年取ったママさんなら、「お宅も古いねー、それは「湖畔の宿」じゃろがー」となるにの。
 年をとると
左脳(記憶と分析を司る)は退廃し、歌の題目や歌手の名前は全く思いつかなくなるが、右脳(連想、情感、発想、感性を等を司る)は衰えを見せず脳活動は活発で、歌いたい歌の情感は完全に把握しているのである。
 そこで開発されたのが
「感性検索エンジン」である。エンジンと言いうと難しく聞こえるかも知れないが。目的とするデータを探し出すソフトウエアのことである。それを使って例えば、「なにかすっきりした調子の、ハイ・テンポで聞けば心が明るくなるような歌だった」と言へば(キーボードやマウスの操作などしなくて音声認識システムを通してしゃべれば良い)、コンピュータが「それはウタダ・ヒカルの「オートマチック」じゃろうがー」、といってイントロを一節、奏でてくれる。それじゃそれじゃと言へば、その曲が配信され、メモリに高速でダウンロードされ、ゆっくり再生すればよい。パソコンの画面は小さいがスナックのカラオケのスクリーンと全く同じ状態が出現する。 部屋を暗くして好きなモルトのグラスでも傾けながら口ずさめば満足満足。あー、それでスナックの客が減ったんか。
 このようなシステムは車用のナビゲータ(GPS)にも組込まれ、キーワードやヒントでの検索と同時に感性検索もでき、このほうが安全運転に適している。勿論、音楽配信だけでなく、始めての町で訪ねたい店やレストラントへの道案内など音声認識システムの発達に伴い年寄りでも極めて容易にカーナビのオプションのインターネットの検索が可能になる。
 
 足腰が萎えてゲートボールにも行けない、朝のジョギングも、そして好きな碁会所にも行けなくなったらそれはそれは淋しい余生を送るしかないが、
指で接触してポインティングする「タッチ・スクリーン」を備えたコンピュータ・セットがあれば、インターネットを通して見知らぬ相手とスクリーン上で囲碁を楽しむこともでき、画面に指を触れて布石すると同時にビシーという石を投じた擬似音まででる有様。また読みたい書物があれば感性を想起して印象深い情景を言えば、たちどころに希望の本のさしさわりの節の朗読が始まる。友人への電子メールのアドレスもあらかじめ登録しておきさえすれば、口頭でアドレスと文面をコンピュータに伝えればよい。
 まだまだ素晴らしいソフトが続々と開発されていくだろう。インターネットこそ正に高齢化社会の不可欠なツール(道具)なのである。


 
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