論説NO.1 実効支配(先占)について  副題:南支那海は中国の湖か 


 国際法上、絶海の孤島、人口希薄な土地の先占は、 その土地における実質的ないしは実効的支配が及んでいればよいとされ、それには当該国家がそれを 領有する意志を持つことが前提である。1888年の国際法学ローザンス会議では所有権ではなく 統治の観念を重視する考え方がとられた。 

 我が国の存立の基盤であるエネルギー(石油)の輸入ルートはペルシャ湾〜インド洋〜マラッカ海峡 〜南支那海(南沙群島の西海域、西沙群島の東海域)〜バシー海峡〜太平洋を通り、総計約1万浬のシ ーレインを経て結ばれている。(海上自衛隊は台湾〜フィリピン間のバシー海峡までの1000浬を担当する。

     
                            

 シーレーンの主要部分を占める南支那海で、1990年、西沙群島中のベトナム領であった永興島(ウッディー)を中国が実効支配し、2600bの滑走路を建設、戦闘航空団(最近ミグ-21等をスホイSu-27および国産の新鋭戦闘機に換装)を配備し、また1995年、クロス岩礁に早期警戒レーダ基地を建設した。

 1994年南沙諸島のフィアリーフィリピンのパラワン島から僅か80キロの南沙群島中のミスチーフ岩礁を実力で 占拠し、建造物や船着場を構築して永続化を確保した。

 1990年、フィリピンからの米海・空軍基地の撤去およびベトナムのカムラン湾からのソ連の海軍基地の撤収後、中国は南海艦隊の根拠地としての香港のストーンカッターズ島に軍港の整備を完了し、国産新鋭駆逐艦12隻の配備を完了し、 米ソの撤退後の力の空白 を埋め、南支那海における中国の覇権を確立しようとしている。いや既に、南支那海は中国の湖と化し、中国は意図すればシーレインを扼する ことができる。当該海域の航行規制の権利を留保し、当面は行使しないとは言っているが、海南島の広大な南方海域をミサイル発射や新鋭戦闘機の飛行試験空域に設定し、実質的な規制力をその都度行使している。

 2001年12月、中国はICAOの承認を受け、下図に示すように海南島を含め東南に伸びる「三亜飛行管制区域」を拡大し、西沙、中沙諸島を包含する南支那海の中枢区域の飛行管制の統制権限を手中に収めた。


                                  

 韓国および台湾は日本と同様なルートでの石油の輸入を行っている。台湾は、1998年、南沙群島中の 太平島を実効支配し、ここに高速哨戒艇の寄港設備を設け、けなげにも自己主張しようとしている。 西沙および南沙群島は、従来からベトナム、ブルネイ、マレーシア、フィリピン、中国がそれぞれ領有 を主張してきた複雑な海域であったが、つまりは力による支配で現状維持がなされている。これが冷厳 な事実である。

 その対応策として、マラッカ海峡〜南支那海を通らないルート、即ち、スマトラ島の南沖を東進し、 ジャワ島との間のスンダ海峡、およびジャワ島東端のロンボク海峡等を通過して北上し、ボルネオの東 海域を経て太平洋に通じるルートが確立され、既に10万屯以上のタンカーの一部が利用しているが、 遠回りになるので経済的には不利益である。日本を含め、東洋、東南アジアの発展のため、南支那海海域における航行の安全保障はこの地域の経 済発展のため将来にわたり不可欠である。

 他方、尖閣列島は勿論、我が国の領土であるが、中国は1993年、領海法を改定しそれを自国領土 としたが、日本が現実に実効支配している。  竹島は韓国が実効支配し、北方四島はロシアが軍事力で実 効支配している

世界にはこの種の国家間紛争が絶えない。尖閣列島の歴史的帰属問題について、亡き昭和天皇はかって
「尖閣に沖縄原生蘇鉄が生えているか、その蘇鉄は沖 縄にはあって台湾にはない」と植物学的見地からおおせられたとか.

国際司法裁判所における公正な判定を期待するのもよいが、判定を拒否しても罰則がないことは案外に知られていない。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を維持しようと決意した」との憲法前文の理想は、現世では実現不能なユートピアの観念論である。

日本は領有および統治国として、尖閣列島の整備(具体的には、最少限、漁船の緊急避難場所、気象測候所、および通信施設の設備)を一日も早く完成することが領有、統治の意思を明示する第一歩である。 自国民の上陸をも禁止するなど、長年の自民党政権の事なかれ、先送りのレガシイを継承した民主党政権に上述の行動を求めるのは不可能であろう。
  
自民党もこの国家の難事に当たり、挙国一致内閣を組閣する意識を持ち、現政権を助け一致協力して対処しなければ国民の共感は得られない。
司令塔の機能不良に陥っている現政権下での総選挙間の機能麻痺の期間が国防に関して最も危険な時期であることを銘記し、来る総選挙までに
領海を守るための法の不備を完全に整備すること、および鳩山政権以来、信頼関係にひびの入った日米同盟を再構築するため憲法以前の自然法とも言へる集団自衛権の凍結を解除することが不可欠である。


参考海上保安庁法第2条の「海上の安全及び治安の確保を図ることを任務とする」の権限が及ぶ範囲について、同法第20条は、「軍艦及び各国政府が所有し又は運行する船舶であって非商業的目的のみに使用されているものを除く」と規定されている。これは国連海洋条約に基づく国際ルールである。即ち、政府の公船(五星紅旗を掲げる中国の海洋局所属の海洋監視船(海監)や農業省漁業局所属の漁業監視船(漁政)には退去を警告するほか手も足も出せないと言うことである。切歯扼腕する保安庁巡視船の乗員の心情および苦悩は図りしれないものがある。

中国がこれら公船を用いて尖閣侵攻を企てた場合、海上保安庁にできる対応には始めから限界があると言う事実を認識する必要がある。海上保安庁の権限強化のみはで尖閣問題に対処することはできない。公船による領海侵犯に対る対する実効ある対処は海上自衛隊による海上警備行動の発動しかない。

参考:

海上警備行動

強力な武器を所持していると見られる艦船、不審船が現れ、海上保安庁の対応能力を超えていると判断されたときに防衛大臣の命令により発令される海上における治安維持のための行動である。 自衛隊法82条に規定されたものであり、自衛隊法93条に権限についての規定が定められている。 海上における治安出動に相当し、警察官職務執行法、海上保安庁法が準用される。 発令に当たっては、閣議を経て、内閣総理大臣による承認が必要である。  相手船舶が本格的に日本への攻撃の意思を明らかにして、海上警備行動でも対応できない場合は防衛出動が発令されるが、これは防衛大臣に命令権がなく、内閣総理大臣が直接発令する。 防衛大臣が発令できるもので最高位のものが海上警備行動である。 現在は、単に「自衛隊の部隊」と規定されており、陸上自衛隊及び航自衛隊の部隊も海上警備行動に参加することができる。


発令事例
 
 
能登半島沖不審船事件(1999年)

平成11年9月24日0時50分に海上自衛隊創設以来初の海上警備行動が発令され、同時に他国の官船・装備品に対する武器の使用が行われた。この事件を教訓に、平時における臨検を行うための特別警備隊及び護衛艦付き立ち入り検査隊が創設されることとなった。


漢級原子力潜水艦領海侵犯事件(2004年)

平成16年11月10日午後8時45分に海上自衛隊創設以来2度目となる海上警備行動が発令される。数日前から人民解放軍海軍のv原子力潜水艦が先島諸島周辺海域を潜航しながら通過中であると海上自衛隊は認識した。中国政府は中国海軍所属潜水艦による日本領海侵犯を認めない中で、日本政府は国籍不明潜水艦として海上警備行動を発令した。海上自衛隊は護衛艦「くらま」。「ゆうだち」及び航空機P-30による追跡を行ったが、武器は使用しなかった。後日、中国政府は同潜水艦が中国海軍所属であったことを公式に認めた。


ソマリア沖の海賊対策(2009年 - )

日本政府は2009年1月16日、東アフリカのソマリ沖の海賊対策に当たり、海上警備行動をもって対処する方針を固めたことを明らかにした。同月20日、国会内で開かれた海賊対策プロジェクトチームの会合でまとめられた報告案は次のとおり。

1. 保護の対象は日本船籍、日本人及び日本の貨物を運搬する外国船舶など日本が関与するもの
2. 司法警察活動は護衛艦に同乗する海上保安官が実施
3. 武器の使用は刑法36条1項(正当防衛)及び37条1項前段(緊急避難)に規定する状況下に限定
4. 防衛大臣は部隊派遣に先立ち実施計画をに国会報告する。



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