平和はお題目だけでは得られない
 1.スイスの傭兵制度

1.スイスの傭兵制度


中世以来、スイスは同盟国に傭兵を送るに際して、スイス連合 および州の旗のもとに、スイスの軍規と兵法にのっとり、スイス人を隊長、指揮官としていた。

 パリで最後までルイ十六世を守って全員戦死するという「交わした盟約は永劫まで」の忠義、 忠誠を貫いた。欧州諸国はこぞってスイス兵の傭兵を望んだ。山岳地の小国が生き残る道が血を 売る道でもあった。このような長年の伝統のもと、スイスの傭兵たちがスイスに持ちかえったも のは傭兵の給料だけではなく、諸国からの絶対の信用を獲得し、後年のスイスの外国飛躍の基礎 を築き挙げたのであった。

2.剣による中立

 1940年、ヒットラーの大軍がデンマーク、ノルーウエーに侵攻した。オランダ、ベルギー、 ルクセンブルグがドイツ軍の手中に帰した。パリが占領された。イタリアがドイツ側に馳せ参じ た。スイスはひしひしとドイツ、イタリアに四方を包囲された。同年7月25日、スイス国内の リュトリの丘にウリ州の第84師団の旗とスイス国の赤字に白十字の旗がなびいた。「レジスタ ンスの尊さに信を持て、いかなる脅威にも最後まで戦い抜く意気を持て」、「最後の一人のスイス 人が残る限り、自由を守って屈服せぬ」の決意が読み上げられた。

 スイス国境のあらゆる地点に、アルプスの絶壁の奥深くいたる所に兵器、弾薬が貯蔵され、主要な橋や道路は立ち続けたのある。

 スイスは九州ほどの面積の中に約30の急峻な峠とそれ以上の深い峪と絶壁、氷河があり、ドイツ といへども簡単には侵入できない地の利があったことは事実である。

   しかし、他面、中立国であればこそ、国土内にはドイツ、イタリア、日本の大使館が置かれ、 しかもドイツ‐イタリア間の軍需物資輸送の列車を通していたのである。

 
中立とはこのようにいかにも複雑なもので、「二律違反」の生き方なのであり、強固な冷静さを要するものなのである。中立の安泰などと簡単に言えるものではない。

3.スイス銀行の信用と発展

 スイスの個人銀行は16世紀に発足し、発展した。それを可能とした一つの原因は傭兵による 稼ぎであった。
 繁栄の支柱としての諸外国の信用、その土台は妥協、盟約、中立によりスイス連合内の政治的、経済的安定であった。さらに、スイスの銀行、金融員の訓練はおそらく世界一の質を持ち、 その訓練の中には最低5ケ国語の習得の含まれている。

 スイスは中世以来、繊細な織物と精巧な時計の、質一本槍の「絶対に信用できる品」と技術に徹したきたスイスは、技術と平行して保険、保証、パテント、ライセンス輸出に飛躍的な発 展をみた。巨額なユ−ロ・ダラーを動かし、世界中に一大経済、金融網を張り巡らし、世界一 の富国になってしまった。

4.スイスの國際性と中立性

 スイスは國際連合に加盟していないが、国連の諸機関には個別に参加するのみでなく、積極 的に協力する。
 國際赤十字の活動、およびスイス国内各地の大学の外国人留学生の比率の高さも世界のトップ 五指の中に入る。

 
このように、「スイスの永世中立」は国家としての強固な意志、國際社会における絶対的信用の確立とその維持のための弛まない努力、さらには国民一人一人の国 家感に基礎を置くことを理解する必要がある。

 
今日も、平凡なサラリーマンのA氏は定期訓練参加のため、自宅に保管している銃火器を念入りに手入れして、それを携行して指定された訓練基地に向っている。

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・ 「中立を保つことは有効な選択とは言えない。中立でいると勝者にとっては敵になるだけで なく、敗者にとっても助けてくれなかったということで敵視されるのがオチである。」

・「弱体な国家は常に優柔不断である。そして決断に手間取どることはこれもまた有害である。」

・「より価値のあるものは兵士の数よりもその勇気である。しかも時としてはこの勇気よりも 地形の方が有益である」
                         
                                    (マキアヴェリの戦術論から)

                   
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